平衡時間も凍結・融解後の受精卵の生存性に影響します.ただ、これは短ければ短いほど良いと言うのではなく、“平衡”(受精卵の細胞内部に凍結保存溶液が入り、凍結保存溶液に移す前の等張保持用液に入っている状態の受精卵と同じ容積を占めるようになった時点)には、ある一定の時間が必要です.これは、細胞膜透過型耐凍剤(エチレングリコール、プロピレングリコール〈別名:1,2-プロパンジオール〉、グリセロール、DMSO〈別名:Me2SO4〉など)の種類、受精卵の由来動物種、受精卵の発育ステージ、シュクロースなどの細胞膜不透過型耐凍剤の存在・濃度に影響を受けます.ただし、最近はダイレクトトランスファーが牛凍結受精卵移植の主流です.ダイレクトトランスファーが可能になった主たる理由は、その動物の受精卵に対して細胞膜透過速度が速い耐凍剤が見つかったことにあります.例えば、1.5Mエチレングリコース(EG)の場合であれば、耐凍剤は瞬時に牛受精卵細胞内に透過しますので、収縮→再拡張の過程を肉眼で見ることはほぼ不可能です.ですから、1.5MEGが入ったシャーレに牛受精卵を移動し、直ちにストローに吸引しても十分な平衡が得られます.逆に、処理する受精卵の個数が多すぎて、この時間が無駄に長すぎると、室温下では耐凍剤の毒性が受精卵の生存性を損なう危険性があります.EG以外の耐凍剤を使用されたり、他の耐凍剤と混合して使用される場合は、その凍結保存溶液に受精卵を浸漬して顕微鏡下で収縮から元の容積への再拡張までの時間を一度計測されることをお薦めします.グリセロールの場合、牛受精卵内に透過するのに室温で15分<の時間がかかりますので、浸透圧ショックを避けるために段階的に濃度を高めていくことが必要です.